日本の子どもは理科が苦手、は本当?なぜ理科教育が必要なのか、ということ。

前回の記事では、家族で「パース・サイエンス・フェスティバル」に出かけた時のレポートと、オーストラリアにおけるサイエンス教育で重視されていることについて、私なりに感じたことを書いてみました。

オーストラリアではサイエンス教育がさかん?子ども向け科学イベントで感じたこと。

楽しく、遊び感覚でサイエンスに触れることを重視しているオーストラリア。

一方、日本では、サイエンスというと、一部の人だけが理解できる、難しい専門知識、というイメージがあるかと思います。
「理系」というと、「文系」よりも特別で優れている、という印象があるし。

日本の教育の中では、子どもの「理科離れ」という言葉も取り上げられており、それを改善するために学校や先生方も色々と取り組んでいるようです。

 

そこで私は、「オーストラリアと日本の理科(サイエンス)教育、客観的に比べたらどうなんだろう?」と、ふと疑問に思いました。

調べたところ、ちょっと以前のデータですが、子どもの理科教育について、国際的に行なわれた調査の結果をみつけました。

今回はそれを元に、両国の教育を(生徒として・親として)体験している目線で、考えたいと思います。

 

日本とオーストラリア、理科が優秀なのはどっち?

今回ネットを探す中で、「国際教育到達度評価学会(IEA)」が行なっている「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の2011年版の結果を見つけました。

国際数学・理科教育動向調査の 2011 年調査 (T I M S S 2 0 1 1) 国際調査結果報告(概要)(pdf)

IEAに参加する61ヶ国で、共通の調査を行い、初等教育(小学校)と中等教育(中学校)それぞれで、生徒の算数/数学理科の教育到達度を、国際的な尺度で測定し、分析したものです。
初等教育では、日本の小4にあたる学年が、中等教育では、日本の中2にあたる学年が、調査の対象となっています。

※最新の調査が2015年に行われたようですが、その日本版分析結果は、まだネットに上がっていないようでした。

上記リンクの報告書は、日本の結果について分析され、作成された資料です。
同時に、オーストラリアの結果も掲載されてはいるので、結果に関して単純に比較することは可能です。

詳しい分析は省きますが、理科の結果についてみてみますと。。。

全体的な得点では、小4については、日本は第4位。一方のオーストラリアは、24位
中2については、日本はやはり第4位オーストラリアは12位となっています。
日本の子ども達は、国際的に見てもかなり優秀なんですね!
それと比較し、オーストラリアは国際的にみて、まあ、平均よりはいいかな、、、って感じ?

しかも、日本は、全体的にレベルが高いということがわかります。

高い水準の学力を持つ、とされる生徒の割合が、日本は小4でも中2でも50%以上に達します。
さらに、小4では90%の生徒が、中2では86%が、中程度の水準以上の学力を有していると評価されています。
生徒の半分以上は高レベルの理科の学力を身につけているし、そうでなくとも、ほぼ9割の生徒がそれなりにちゃんとしたレベルの学力は身につけている、と言えると思います。

一方オーストラリアは・・・
小4も中2も、高い水準の学力を持つ生徒の割合は、35%
中程度の水準を合わせても、小4は72%、中2は70%。日本と比べると、ある程度はできる、というレベルにすら達していない子が、3割近くいるってことです。

くりかえしますが、日本の理科の教育レベルは、世界的に見ても高いんですね。
しかも、平均値が高いだけでなく、「できない」生徒の割合がとても少ない。

全体的にレベルが高いんです。

 

一方、オーストラリアはサイエンス教育がさかんのように感じましたが、実際に学力という面では、ものすごく優れている、というわけではなかったのです。

 

日本の生徒、理科ができるのに、楽しくない?自信がない?

 サイエンス4  

一方、理科に対する意識のアンケートの結果は・・・。

「理科の勉強は楽しい」「理科の勉強が好き」
小4、中2どちらも、「強くそう思う」の回答は、日本よりオーストラリアの方が高いです。

ただ、小4では、「強くそう思う」と「そう思う」を合わせ、肯定的な回答としてみると、日本もオーストラリアもほぼ変わりません
「理科の勉強は楽しい」は日本90%、オーストラリア88.3%が、そして「理科の勉強が好き」は日本83.2%、オーストラリア84.1%が、肯定的な回答をしています。
日本の小4もオーストラリアの小4も、理科を楽しい、好きだ、と思っている生徒は多いんだな~と思いました。

ところが、中2になると、差が出てきているように思います。
(統計的に有意かどうかまでは検証してません)

「強くそう思う」と「そう思う」を合わせた回答で見ると、「理科の勉強は楽しい」は日本62.7%オーストラリア70.1%。そして「理科の勉強が好き」は日本52.5%オーストラリア64.7%です。

理科が楽しい、好きと肯定的な答えは、どちらの国も小4より減少していますが、日本の方がより少なくなっています。
日本の生徒は、学年が上がるほど(受験を意識するほど?)理科の授業が好きではなくなってしまうんでしょうか・・・


また、最も特筆すべきは、「理科に自信があるかどうか」という項目です。
これは、いくつかの設問の結果を総合し、「理科に対する自信の程度」を判定した項目のようですが、ここは、日本とオーストラリアで大きな差が出ました。

結果から「理科に自信がある」に分類された生徒は、日本の小4は17%、一方のオーストラリア小4は42%
中2では、日本はたった3%のみですが、オーストラリアは16%です。
「自信がある」と「やや自信がある」を合計しても、日本の小4は65%なのに対し、オーストラリアは78%。日本の中2は31%ですが、オーストラリアは65%があてはまるということです。

特に中2の結果で、大きく差が開いているのが印象的です。


日本の生徒はみんな、理科に対し、国際的に見てもすごく高い学力を持っているんです。
そして、少なくとも小学生では、理科に対する意欲や興味も、しっかりあるんです。
なのに、理科に「自信がない」・・・
そして、年齢が上がるほど、理科に対する興味を失ってしまう。
こんなに優秀なのに、もったいない話ですが・・・なんでだろう。


ところでこの「理科に自信がある」について、一つ、私なりに勝手な推論をしました。
あくまで私の個人的な推論ですが(笑)。

先の資料を見ると、この「自信の程度」を測る質問項目の中で、

「理科で習うことはすぐにわかる」
「難しい内容の理科の授業でも私がよくできると先生は思っている」
「先生は私に理科がよくできると言ってくれる」
(中2)

という項目があるみたいですが、この点に関し、オーストラリアの生徒はより肯定的な回答をしたのでは?と思いました。

日本では、先生が生徒に「君は理科がよくできるね!」「よくこの問題が解けたね!」なんて言うことは、めったにないんじゃないか、、、と思います。→先生がこれを言う時は、その子が本当に天才並みにできる場合。

理科に限らないと思いますが、日本の学校教育の中では、みんなと同じようにできないこと、教えられたことを間違えたり覚えられないことに対し、それを指摘されることが多いように思います。
言い方が悪いけど、「ネガティブな点を意識させられる」教育。
だから、悪いところがないように、みんな一生懸命がんばって、全体的にすごくレベルが高くなるんだろうな、と。
その代り。。。どこまでがんばっても、私はこれができた!を実感し、自信を得ることが、難しいのかも。

一方こちらの先生は、生徒一人一人が頑張ったところ、その子が得意なところ、とにかくポジティブな面を発見し認めて「よくやった」「それはいい考えだ」とリアクションをするんですね。
だから、できないところはいつまでもできないままかもしれないけど(笑)、得意なところはどんどん伸びていく。そっちの方が、教育の中で重要視されている気がします。
娘のハイスクールの先生方の対応を見ていても、娘は点数で言えば決して優秀クラスではないけれど、ちょっとでも以前より改善したことや、授業中での発言に対し、先生はその都度、ポジティブな反応を返してくれるようです。
だから、「私は皆よりできないんだ・・・」と自信を失わず、やる気を萎えさせずにやり通すことができていると思います。
その中で、自分自身の達成度を冷静に見返して、さらなる改善を目指していくことは、常に必要なことだと思うし、もしかしたらそれが、親の役割かもしれません。

また、こちらは一般的に、高校受験というものがないので、中2の年齢で、ペーパーテストに対するプレッシャーと言うのも、日本に比べると少ないのかな?とは思います。
こちらでも、学年での成績評価はきっちり行われますし、定期テストもあります。それらの積み重ねが、大学進学を含め、義務教育終了後の進路をも左右する可能性があるので、中学だからといって気は抜けない厳しさはあります。

が、たとえば理科の授業においては、ペーパーテストだけでなく、自分で調べながら図と記述で事象を説明するようなレポート作成も正式な評価対象となっています。公式や語句の暗記だけでなく、授業で学んだことをストーリーや体験として咀嚼して、アウトプットすることが評価につながるので、「授業の中で私はこれだけのことが理解できた」という感覚を得やすいのかも?自分が学んだことに対する自信を得やすいのかな、と思います。
Year9(中3にあたる)の娘は、テストよりレポートの方が得意のようです。

 

本当の問題は「理科離れ」なのか?

サイエンス3

 

先ほど、国際的な調査結果から、「オーストラリアより日本の子どもの方が、より年齢が上がるほど理科が楽しくなくなる・好きでなくなる」という結果を紹介しましたが、日本国内の全国調査でも、同様の傾向が指摘されているそうです。

子どもの「理科離れ」は、日本の教育界の一つのキーワードとなっているようです。

「理科離れ」続く 小学生は好きなのに…教員の指導力向上が課題(産経ニュース 2015.08.25)

その原因として、理科を指導できる教員の人材不足などが挙げられています。。。

また、これはちょっと前の記事ですが、「経験10年未満の小学校教員の6割以上が「理科が苦手」と回答している」とのこと。
理科の「教科担任制」、小学校でも約3割に。小学校教員の6割以上が「理科が苦手」!? (ベネッセ教育情報サイト 2012.2.27)

生徒だけでなく、教える先生自身も、理科に対して苦手意識がある、という指摘です。

それに対し、理科を専門的に教える専科教員を配置するなど、学校によって工夫も行われているようです。


・・・が、思い出してください。

日本の子ども達の理科の成績は、世界で見ても高いレベルにあるんです。
先生達は、「難しいなぁ~」と思いながらも、子ども達に理科の楽しさを伝えられるよう、すごく工夫をしているんだと思います。
だって、小学生の9割が、「理科は楽しい」と言っているのです。
十分、ポジティブに受け止められる結果だと思うんですね。

 

理科の勉強というものが、「科学に触れ・理解を深めること」そのものよりも、「公式の暗記」や「語句の暗記」などで、テストで点数を取ることが目的となってくるから、勉強がつまらなくなるんじゃないですか・・・ね???

それでも、たとえつまらなくても、日本の子ども達は、すごく真面目に一生懸命に勉強に取り組み、高い学力をキープしています。

一方で、それなのに自信が持てない。学ぶことが楽しくない。

学力をつけることが、自信や意欲につながらないなら、何のためにその高い学力が必要なんだろう・・・?

「理科離れ」という言葉だけではこの問題は表現しきれないのでは、と私自身は思います。

 

なぜ教育が必要なのか?という問題

サイエンス2

現在、子どもにより良い教育を受けさせるために、海外への長期留学や移住を考えている方もいるかもしれません。

その教育というのが、高い学力や得点力、優秀さ、等を第一に考えているなら、海外の教育に夢を抱くより、むしろ日本の教育を受けさせた方がよいのでは、と思います。

オーストラリアの教育を見ている限り、英語という面以外では、日本の方がずっと難しい内容の授業をやっています。
そして、オーストラリアに比べたら、日本の教育は厳しい。いつでも正確に、ミスなくしっかり覚えることを要求されるように思います。宿題も多い。その分だけ、日本の生徒の方が学力の面で鍛えられているのは確かだと思います。

 

子どもをどんなふうに育てたいか、どんな教育を受けさせたいか。なぜ勉強させるのか?

色んな考えがあると思います。

私自身は・・・

究極を言ってしまえば、子ども達自身が自分らしく幸せに、自分を大切に、誰にも支配されず、自立して生きて行ってほしいから、そのために教育が必要なのだという思いがあります。

大人になるまでの20年弱の長い道のりというのは、そのためにあるんだと、思うのです。

 

 

サイエンスを学ぶことの意味、として言えば・・・

私は自分自身が大人になり、理科と関係のある職業についた事はまるでないんですが、それでも私が今思うことは、日常生活で科学の知識や考え方が必要な場面って、多々あるなぁーということ。

食や料理なんて、むしろサイエンスと深く関わっています。
健康的な食材の選び方、食品の原材料を知ること、、、レシピを見て料理をすることでさえ、さりげなく科学的な基礎知識が必要なことって、たくさんあるんです。
自分や家族の健康に関すること。家の修繕や保ち方。ペットを飼うこと。ガーデニング。洗濯。掃除。ペンキ塗り・・・
そんな、誰にでもできる、ありきたりの日常に関わる事でも、サイエンスの基礎知識は実は必要です。
それも、化学・生物・物理・・・などとクリアに分かれるものでなく、それらは密接に関わり合って、さまざまな分野の知識を総合し組み立てながら、私達は日常のさまざまな出来事を理解したり、対処したりしているのです。

そしてまた、自分の生活が、目に見える半径十数メートルだけの世界で成り立っているのではない・・・その外にも世界はずっと続いていて、つながっていて、自分が目に見えない世界と自分の存在が影響を及ぼし合っていること。それを理解するためにも、サイエンスの学習は必要だと思います。

 

私達は、人の言いなりにならず、自分自身を守るために、自分の生活をより充実させるために、よりよい人生の選択を、自分の力で、自立して行なっていくために、サイエンスを学ぶのだと、今大人になって私は思うんですね。

でもこの世界を知ることは、本当に限りがない。
だから、完璧を目指さなくてもいい。
その時その時、必要なことを学び、その先を知りたいと思った時、自分で学んで考えて行ける力。それを育てることが、大切なんじゃないかなーと思います。

 

そしてサイエンスは、やっぱり楽しいし、知れば知るほどワクワクするものだと思います。

サイエンスは、自分が生きるこの世界に興味を持つこと、自分自身の命や人生に興味を持つこと、、、と、つながっているんじゃないかと思います。

逆に、どんなに高い理科の学力を身につけられたとしても、それがそうした好奇心や自信を喪失させ、自分の生きるこの世界への興味を失わせてしまうなら、私は、それが子ども達にとってよい教育だとは思いません。

正直、理科という科目が好きかどうか、なんて、どうでもいいんです。
私が今回考えた、本当に考えたかった部分は、ここにあります。
つきつめれば、理科だけに限らない。

勉強が大切なのは言うまでもないけれど、それは点を取るためではなく、自分の判断や選択、自分の人生に、自信と誇りを持って生きて行けるようになるため。
子どもの良さよりも、欠点により目を向けてしまいがちな日本の公教育には、私は疑問を持っています。
これまでの「安定」や「経済成長」を前提とした社会の形が急速に崩れている中で、私達日本の大人は、「なぜ教育が必要なのか?」「どんな教育が必要なのか」ということを、根本から考えなおす必要があるかもしれません。

私自身は、オーストラリアに来て、日本とは違う教育の形を知ることができて、本当によかったと思っています。

 

我が家は今のところ、息子も娘も、サイエンスの授業は楽しいと言っています。

この先も、将来の職業に関わらず、その楽しさを忘れないでほしいと思います。


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Chieko
2013年より、西オーストラリア・パース在住。2017年永住権取得。
息子(小学生)、娘(ハイスクール)、夫と4人暮らし。

オーストラリアをテーマにしたライター。得意分野は、食、生活、子育てに関すること、子連れでの観光・旅行(キャンプ)。
趣味は料理・ガーデニング・DIY。

オーストラリア生活で私が学んできた英語のことと、大人の英語勉強法についてつづるブログ「話す英語。暮らす英語」も更新中。
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