オーストラリアの遺伝子組換え食品。表示は?種類は?日本とのつながりは?

最終更新日時 : 2015年11月22日

前の投稿では、遺伝子組み換えなたねを発端としたファーマー同士の裁判から、遺伝子組み換え作物の栽培に関する西オーストラリアの現状を書いてみました。

遺伝子組み換えと闘うオーガニック生産者の話~西オーストラリアのGM事情

 

で、やっぱり消費者として気になるのは、

なぜ、遺伝子組み換えが問題になっているのか?
自分は遺伝子組み換え食品を食べているのか?

というところです・・・。

 

なぜ遺伝子組み換えなたねの栽培が増えている?

 

前回の投稿で、西オーストラリアでは遺伝子組み換えなたねの作付けが増えている、と書きましたが、それはなぜなのでしょうか・・・。


遺伝子組み換え(GM:Genetically Modified)作物
の特徴としては、大きく2つあります。

【1】害虫に食べられない農作物を作る(害虫抵抗性作物)

農作物の成長を妨げる要因の一つが、害虫ですよね。

作物を食べてダメにしてしまう害虫に対し、有毒な作用を持つ微生物がいるのですが、その微生物の遺伝子の一部を、遺伝子操作によって農作物の中に組み込むのです。
つまり、遺伝子組み換えで作られた作物は、害虫にとって有毒な作用を持つので、それを食べた虫は死んでしまいます。だから、殺虫剤を蒔いたり、虫を防ぐ対策を取らなくてもよくなります

 

【2】除草剤をかけても枯れない農作物を作る(除草剤耐性作物)

農作物の栽培に邪魔なもの、といえば、もう一つが雑草

そのため、除草剤をまいて不要な雑草を枯らすわけですが、雑草の種類によって効く薬が違ったり、作物をダメにせずに雑草だけを枯らすために、複数の薬剤を組み合わせたり撒き方を工夫したり、色々と手間をかけなければなりません。

ですが、1970年代にアメリカのモンサント社が開発した除草剤(主成分:グリホサート-Glyphosate)は、植物の体内でエネルギーを作るしくみを阻害することによって、すべての植物を枯らすことができます。今ではRound Up(ラウンドアップ)という名前で、日本でもオーストラリアでも広く発売されていますね。
でも、それでは農作物まで枯れてしまう・・・そこで、グリホサートが効かないように、遺伝子組み換えによって農作物のしくみを変える。それが遺伝子組み換え作物です。遺伝子組み換え作物なら、除草剤を一気にまいても農作物がダメにならない。そして雑草だけを駆除できる。農作業の手間が大幅に省けるのです。

 

GMとうもろこしなどは前者のタイプ、GMなたねは後者のタイプに当たるそうです。
もちろん、両方の特性を併せ持ったGM作物もあるそうです。

 

遺伝子組み換えを推奨する立場の人達は、GM作物の導入により、殺虫剤や除草剤の使用を減らすことができ、収穫量も増え、生産者は手間を削減して良質な作物をより多く生産することができる、消費者にとっても安全で安く食材を購入できるメリットがある、と主張しています。
また、遺伝子組み換えの安全性については、特定の害虫や、植物にしか影響を及ぼさないしくみを利用しているので、GM作物を人間が食べても健康には影響がない、と説明しています。

 

確かに、農家の人々にとって、GM作物はnon-GM作物に比べて栽培しやすいということなのでしょう。

特に、オーストラリアの畑は、とにかく広大!!大きなマシンでなければ、耕すことも肥料や薬をまくこともできないでしょう。

そういう商業用の大規模な畑で農業をする人々にとっては、政府も奨励している状況の中で、遺伝子組み換え作物の登場は喜ばしいものかもしれません。

 

人々はGMフードを受け入れているのか?

一方で、ナチュラルで環境を大切にする『オーガニック』も、ここオーストラリアでは、生産者からも消費者からも支持されています。
そういった、自然環境との共存や健康や安全性を意識する人々は、やはり人工的な遺伝子組み換え技術にも否定的です。

西オーストラリアの、オーガニック農法に関わる人々の非営利団体(Organic Association of Western Australia)によると、遺伝子組み換え作物を動物に食べさせた実験では、肝臓や腎臓に対する毒性が認められたり、肺の病気、アレルギー反応、胃腸の機能障害、成長不全や早産・死産が認められたケースがある、として、安全性を疑問視しています。

にも関わらず、オーストラリア政府はGM作物の安全性について、独自の検証を行ってはおらず、GM作物を開発した企業側が示した安全性のデータを鵜呑みにして認可してしまっている、と批判しています。

また、遺伝子組み換え作物の問題点は、私達人間への健康影響のみでなく、自然環境や生態系のバランスを壊すことにつながる可能性があるということも、指摘されています。

遺伝子組み換え作物が危険である可能性を示唆する意見は、日本語でもネットでググるとたくさん出てきますので、ここでは割愛します。興味ある方は調べてみてください。

また、遺伝子組み換え作物そのもののみでなく、除草剤耐性を持つGM作物に対して使われる除草剤(グリホサート)についても、議論になっています。
この除草剤を認める立場の人は、グリホサートは植物にのみ影響があり、人体には無害である。また土壌の微生物によって分解され、土壌中には残らない。と安全性を主張しています。
一方、グリホサート系除草剤に発がん性がある可能性がある、という見解もあります。

GM作物の安全性に関する是非は、さまざまな立場からさまざまな意見が出されていますが・・・

前回の記事で書いた通り、西オーストラリアでは、州政府は遺伝子組み換え推進の姿勢を取っており、GMなたねの作付けも増えていますが、環境や安全性を重視する生産者や消費者からは、GM反対の声も根強くあるのは、事実だと思いますね。

 

私が覚えているのは、2年前のことですが、偶然パースシティの近くの公園を通りかかった時に、イベントのようなものが行なわれていたので、「なんだろう?」と思ってよく見たら、「No GM(遺伝子組み換え反対)」とか「No Monsanto(No モンサント社)」といった看板が見えたことがありました。

GMfree

ああ、遺伝子組み換え反対のキャンペーンなんだな、と思いましたが、全然難しそうな雰囲気ではなく、音楽の演奏なども行われていて、くつろいだ感じのゆるい空気感だったので、ちょっと驚いたのを覚えています。親子連れや若者も多かったです。
こうした人々にとって、遺伝子組み換えに関心を示すのは特別なことではなく、毎日の食や環境・家族のことを考えるのと同じレベルの、ごく当たり前のことなんだろうなぁ、と思いました。

 

遺伝子組み換え食品の表示について

では、オーストラリアに住む消費者として、GM食品を選ばない、という方法はあるのでしょうか?

まず、遺伝子組み換え作物に対する、オーストラリアの食品表示はどうなっているか、というと・・・。

オーストラリアとニュージーランドの食品の安全基準を管理する組織(Food Standards Australia New Zealand(FSANZ))により、以下のルールが定められています。

新種の遺伝子やたんぱく質を含む遺伝子組み換え食品、食材、添加物は、「遺伝子組み換え(GM:genetically modified)」と表示しなければならない。(遺伝子組み換えによって食品の栄養素を改良しているもの、たとえば高オレイン酸大豆なども含む)

ただし、例外として…

◆製品自体に新種の遺伝子やたんぱく質を含まないものは表示しなくてよい。例えば、砂糖や油など(主に高い純度で精製されたもの)。
◆遺伝子組み換え食材を含む香味料は、濃度0.1%以下ならば表示しなくてよい。
◆NON-GMの食品にGM食品が不作為に混入してしまっているのを発見した場合、認可されたGM食品ならば、1%以下なら表示しなくてよい。(たとえば、NON-GMとして発注した食材に、1%以下のGMが混ざっていたことがわかった場合)

ということになっています。

注意点として、食品の特性が遺伝子組み換え食材の混入により変わっている場合は、この例外は適用されないということです。

また、

●レストラン・カフェ・テイクアウェイ、ケータリングなどの外食産業では、GMの表示義務はない。(顧客へ正しい情報を提供しなければならない)

●『GM free』や『non GM』の表示は、義務ではなく、自主的なもの。

ということです。

 

遺伝子組み換え食品を選ばない方法は?

では、実際にオーストラリアでは、どんな遺伝子組み換え食品が販売されているのでしょうか。

現在、オーストラリア国内で商用栽培されているGM作物は、なたねと綿花の2つだそうです。

つまり、オーストラリア産の農作物(野菜・フルーツなど)は、基本的にGM Free(遺伝子組み換えでない)であると考えられます。

が、なたね油(canola oil)は例外です。
また、綿花から採取される綿実油(cottonseed oil)も例外です。

なたね油については、スーパーマーケットに行くと、何種類ものcanola oilが売っています。
中には、『Non GM』と表示された、オーストラリア産のなたね油が売っています。

NonGM4 NonGM2

一方、GMに関して特に表記のないものもあります。輸入物も売られています。Non GMと表記されたものの方が、それらよりも少し割高です。

このように、なたね油はNon GMのものを探して買うことができますが、加工食品やパン、お菓子など多くの食品に使われている油については、 遺伝子組み換えのものが使われている可能性がありますが、私達は知ることができません。綿実油も同様に、加工品やvegetable oil(植物油)に含まれる可能性があるとのことです。


また、現在オーストラリアでは、以下のGM作物が認可されています。

大豆
なたね
とうもろこし
じゃがいも
てんさい(sugarbeet)
綿花
アルファルファ

FSANZのウェブサイトより

これらのGMフードは、輸入物として入ってきている可能性があるので、基本的にはオーストラリア産のものを選ぶことが非GM食品を選ぶことにつながります(なたねと綿花をのぞく)。

ですが、これらの食材は、調味料や加工食品、お菓子などの材料として使われる場合も多いです。
たとえば、大豆はsoy flour やsoy lecithinとして多くの加工品に使われているし、とうもろこしはmaize starch/syrup、corn starch/syrup、glucose syrupとして多くの食品に使われています。このようなものは、遺伝子組み換え食材が使われていても、それを知る手だてがありません。

また、肉・卵・乳製品などは、飼料に遺伝子組み換え作物が使われている可能性があります。
それが食品そのものにどんな影響をおよぼすかは、未知数なところですが・・・。

こうした加工食品や農畜産物について、確実にGM作物が使われていない物を選びたい場合は、オーストラリアのオーガニック認定を持つ食品を選ぶのが一番確実、ということになるかと思います。

オーストラリアでGM Freeを訴える母親達の非営利団体MADGEのウェブサイトでは、遺伝子組み換え食材を避けた食品購入のしかたを解説しています。(How to shop GM free
また、GM Freeを求める非営利団体The GM–Free Australia Alliance Incは、2015年版の遺伝子組み換え食品を避けるための買い物リストを作成しています。(GM Free shopping list PDF)

GMfreesnack

↑スーパーマーケットでみつけた、『GM free』と書かれたシリアルスナック。上記のGM Free shopping listにも掲載されている。

最後に、加工食品として入ってくる輸入食材(冷凍食品やインスタントラーメン、調味料、お菓子など)については、遺伝子組み換え食品についてどのような基準になっているのかは、今のところわかりませんでした。

 

日本の消費者のためにも・・・

私個人の意見としては、遺伝子組み換え食品は、やはり現段階では「安全とは言い切れない」のではないか・・・というのが、素人ながらも食品を選び食べる(家族に食べさせる)側としての、率直な思いですね。やっぱり食べ物も私たち人間も、複雑で奥深い自然環境のごく一部として、密接に関わり合いながら生命を得ているのですよね・・・そう考えると、私達の命の源である遺伝子を、自然の脈略を無視して任意に作り替えるということが、本当に生命のバランスを壊す可能性がないといえるのか・・・という疑問があります。食べる人間の健康という話だけではなく、自分達も生きる自然環境全体への、長い未来へ対する心配も含めて。。。まぁ私の個人的な意見ですが。

なので私は、消費者として、もしもGMとnon-GMのどっちを選ぶ?と言われたら、可能な限りnon-GMを選ぶなぁ、というのが本音です。

私の目がいかないだけかもしれませんが、この2年半パースでさまざまな食品を購入してきて、「GM」と表記されたものを見た覚えがありません。

かといって、完全に遺伝子組み換え食品を口にしていないか、というと、先にも書いた通り、加工品や飼料として2次的に使われていることは、多々あるんじゃないかな、と思います。そういったものは、わざわざ「GM使用」とは表示されません。

消費者側としては、選べるならGMは選ばないし、売る側もそれはわかっている・・・ということなのかもしれません。

最後に、日本との関わりについてですが・・・

日本ではなたね油はよく利用されますが、原料のなたねはほぼ輸入に頼っているようです。

輸入先としては、カナダが約94%、オーストラリアが約6%。
そのうちの、カナダから輸入されるなたねの97.5%は遺伝子組み換え、ということです。
(2013年。財務省貿易統計とISAAA報告書を元にしたデータ)

日本で非遺伝子組み換えなたねにこだわる生産者や生協などでは、過去には、西オーストラリアに限定してなたねを輸入するなどしていたようですが、2010年以降のGM解禁を受け、非GM農家を限定して契約したり、今もGMが禁止されているタスマニア州などの農家から購入するなど、遺伝子組み換え不使用のなたね油の製造に腐心しているようです。

西オーストラリアに住む日本人としては、遺伝子組み換えでないなたねを求める日本の消費者のためにも、西オーストラリアのGM栽培はこれ以上拡大しないでほしい・・・と思いました。


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Chieko
2013年より、西オーストラリア・パース在住。2017年永住権取得。
息子(小学生)、娘(ハイスクール)、夫と4人暮らし。

オーストラリアをテーマにしたライター。得意分野は、食、生活、子育てに関すること、子連れでの観光・旅行(キャンプ)。
趣味は料理・ガーデニング・DIY。

オーストラリア生活で私が学んできた英語のことと、大人の英語勉強法についてつづるブログ「話す英語。暮らす英語」も更新中。
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